モダンウエスタン・カバー集の第6弾は 「クイック・アンド・デッド(The Quick and the dead)」
1995年に公開された、かつての西部劇への愛情とオマージュに満ち溢れた傑作!
スタイリッシュ、ロマン全開、そして荒唐無稽。
なんたってサム・ライミ監督です。
とりあえずどんな映画か・・・
当時のTVロードショー放映時の貴重な紹介動画を見ていただければバッチリ!
ちなみに英語圏でのトレイラーはこんな感じ(かっこいい)
19世紀末、西部の田舎町その名もリデンプションは
悪名高きジョン・ヘロッドが支配する、政府からも保安官からも見捨てられた町。
力こそが全て、そんな町を象徴するのが「ガンファイト・チャンピオンシップ」
問答無用、実弾での早撃ち大会が行われ
途方も無い額の賞金を求め、各地から一癖もふたクセもある連中が集まってくる。
まるでスト2、天下一武道会。あるいは超人オリンピック。
テーマ曲もイカしてる。
まさにウエスタン調、いやむしろマカロニウエスタン調。
音楽担当は、アラン・シルベストリ大先生!そりゃカッコいいはずだ。
場面盛り上げをやらせたら世界一かもしれない。
白バイ野郎ジョン&パンチからバックトゥザフューチャーシリーズ
プレデターにナイトミュージアム。そして、アベンジャーズ・シリーズの音楽家です!
この「荒野感」あふれるテーマ曲を、カバーしてみました!
例によって、ベースのメロディを主軸に組み上げました。
(いちお、自分のアイデンティティのつもり)
劇中の素敵な映像とともにお楽しみください。
☆ ☆ ☆
さて、無駄話。
この「クイック&デッド」、どこか異質な肌触り。
ウエスタンのようでウエスタン独特の香りがしない。
むしろ劇画チックというか、ある種のパロディ感が漂ったり。
西部劇の様々な「かっこいいシーン」を繋ぎ合わせて強引なストーリを仕立てた、というか。
まるでパラレルワールドで繰り広げられる、ガンファイト礼賛マンガというか。
内容的にはシリアスな復讐劇だったり、理不尽な圧政に立ち向かったり
定番西部劇のプロットそのものですが
なぜか、泥臭くも汗臭くもなく、クールでサラリとした印象。
女性が主人公だから?なんて思いましたが、いやいや
ラクエル・ウェルチの「女ガンマン・皆殺しのメロディ」なんかは
相当ドロドロ感ありますから。
マキャベリズムのマキャベリさんの子孫、ニコレッタ・マキャベリさんの
「荒野の女ガンマン・ガーターコルト」も泥臭さたっぷりですし。
「ヤングガン」や「トゥームストーン」なんかは、かなり直系ですが
この「クイック&デッド」は、ちょっと斜め上からアプローチしてる、そんな印象。
実は製作に日本スタッフも関わっていて(いちおう日米合作ということになってる)
時代劇的な構図や、劇画チックな描写はその辺に起源があるのかな、なんて…
そうそう劇画といえば
ちょっと前に、なんとかジャンプに連載されてた「ピースメーカー」って劇画
この映画に相通ずるおのがあります(もしかしたら影響受けてる?)
伝説の銃・ピースメーカーを父親から引き継いだ男が、
架空の西部世界で決闘を繰り広げるというストーリ。
登場人物が「ピース・エマーソン」とか「フィリップ・クリムゾン」とか
「ビート・ガブリエル」とか「コニー・レヴィン」とか…
で、タルカスとかジェネシスとかいう街で、銃士たちが決闘トーナメントを行うという…
ネーミングがジョジョを彷彿とさせます。
閑話休題。
クイック&デッド。
どこかふんわりとして脂っこくも重たくもない空気を漂わせていますが
その分、個性的で魅力的なキャラクターたちや
スタイリッシュなガンファイト、興味をそそる小道具たちが冴えわたっております。
主人公は「ザ・レディ」ことエレン嬢。演ずるはシャロン・ストーンさま。
いやはや、この方の美貌は反則レベルですね(汗
とりあえず毎秒、絵になってしまいます。
実はこの時点ですでに36歳なんですよね~
冒頭のシーンでは、御大クリントイーストウッド様の「名無しの男」への
オマージュかな、なんて思えるアディオス挨拶をしてみたり。
アディオス。
こちらは本家。
このシーン以外にもあちこちに偉大な過去のウエスタンへのオマージュが。
ガンショップのシーンは「続・夕陽のガンマン」?とか
時計と決闘の組み合わせ~一瞬の緊張感は「夕陽のガンマン」かな?
さすがに胸に入れた1ドル銀貨や聖書の描写はありませんでしたが…
回想シーン、吊られた肉親を見上げる主人公そしてラストにその記憶を喚起させる…
まさにセルジオ・レオーネ先生の「Once upon a time in the West」じゃないですか!
"Who are You?" そして思い出させるのが所持品(ハーモニカとバッジの違いはあれど)。
ウッディ・ストロード氏がカメオ的に出演している(結果的に遺作になった)あたりも
まさにあの作品へのオマージュとしか思えない!
町を牛耳る支配者、ヘロッド。演ずるはこれまた御大ジーン・ハックマン。
自身の妻さえ処刑する恐怖政治の親玉。
ん、イーストウッドを意識したポージングのエレン嬢
彼女が対峙する男は、ジーンハックマン(しかも権力者)
もしかしてこれまたオマージュかな、「許されざる者」への…な~んて(^-^;
とにかく圧倒的なチカラをもつヘロッド。
自らも凄腕ガンマンとして君臨。
彼のガンさばき、実に素晴らしい!さすが元海兵隊員。
そして、この映画の銃器およびアクションのアドバイザーは
かの有名なセル "マーク" リード氏。
1960年代、本場アメリカの「早撃ち大会」を10代にして荒らしまくり
次々に新記録(マーク)を打ち立てることからそのニックネームがついたというレジェンド。
「マグニフィセント・セブン」での銃器&ガンアクションも彼が担当していました。
マカロニ風のフェイクホルスターではなく、正統派のガンベルトを正しい位置で。
伸びた背筋は、銃の抜き差しでピクリとも動かず。
もちろん瞬きなんかしません。
この最強ガンマンにして待ちの支配者に挑む者たちは
いずれも個性的。
かつてはアウトロー、凄腕で悪行の限りを尽くしたという伝説の男は
いまや、人を傷つけないと誓ったコートと呼ばれる牧師。
ヘロッドたちに甚振られながら無抵抗主義を貫くも
「その伝説の腕前を見せてみろ」と無理やりトーナメントに参加させられる羽目に。
演ずるはラッセル・クロウ。
当時30歳、実はこの作品がハリウッドデビュー。
物憂げで紳士的。銃を抜かないと誓った彼だったが…
そしてヘロッドの婚外子である「キッド」
親に止められつつも、強引に出場。
その本心は、実は敬愛する親に認めてもらいたい
そして親の七光りじゃないところを証明したい、という純粋な心。
演ずるは若きレオナルド・ディカプリオ。
撮影当時は20歳。「タイタニック」の2年前です。
初々しくもキラリと光る演技。
こんな麗しきレオ様。
奇しくも18年後に再び西部劇に姿を現したときは
かつてヘロッドがそうだったように恐怖で人心を操る支配者になっていました(^-^;
さて若きキッド、エディプスコンプレックス丸出しで臨む命のやり取り。
その結果やいかに…
早撃ちトーナメントはヘロッドが胴元を務めるギャンブルの対象でもあり
その賞金額のバカ高いことで有名。
故に、あちこちから己の命を賭けて一攫千金を求める連中が集結します。
ギャンブラーを気取るの伊達男エース・ハンロン。
長距離からトランプを射抜くという名手。
カントレル軍曹は南北戦争の勇者だった男(おそらく北軍)。
今は恐れを知らぬ賞金稼ぎ。カネのためなら誰でも殺る。
殺人マニアのクレイジーガイ、スカーズ。
そのニックネームの通り、身体中がキズだらけ。
ただしこのキズ、誰かにやられたものではなく
戦った相手を殺すたびに、自ら刻んだもの、と嘯く。
冒頭でエレンを襲った男、ドッグ・ケリーもやってきた。
砂漠に潜んで旅人を襲って強盗・殺害を繰り返す根っからの悪党。
命懸けの勝負は日常の事に違いない。
たっぷりと髭を貯えた一見、紳士風のガズトン。
彼もまたカネと名誉の欲に駆られた男。
最新鋭、強力な武器を引っ提げて決闘に臨む。
ネイティブの荒くれ男、スポッテド・ホース。
酒場でトラブルがあっても誰も手が出せないほどの強靭な肉体の持ち主。
カネのためか、あるいは白人たちへの恨みが原動力か。
人種も背景も出自もさまざま、それぞれ。
そんな彼らが命を賭けてガンファイト、早撃ち勝負のトーナメントに挑む。
ルールは唯一つ、広場の時計の分針が頂上を指したら銃を抜き引き金を引く。それだけ。
おお、なんとジャンプ的な世界観。
どっちが勝つ?どうやって勝つ?もうワクワク感しか無いッ。
ガンファイトはガチなリード氏が指導、監修。音楽はテッパンのアラン・シルヴェストリ。
サム・ライミ監督が新たに取り入れた斬新な撮影技法の数々。
興奮しないはずがありません!
さらに。
ストーリーやアクションをしっかり盛り上げる小道具…そう、銃器も多彩でマニア心をくすぐります。
エレンが手にするのはコルトSAA。
ニッケル仕上げに象牙のグリップが凛とした佇まい。
ガンスピンも難なくこなしております。
実際に映画で使われたプロップがコチラ。
複製でしょうがSAAの1stモデル。持つ人同様、美しいですね~♪
エレンは他にも「ナックルダスター」と呼ばれる小型の護身用の銃器も所持。
22口径、当時の女性の護身用として一般的だったようです。
なかなかマニアックですね~(普通ならデリンジャーあたりが使われそうなのに)
そのデリンジャーを隠し持っているのは町のボス、ヘロッド。
レミントン1866モデル。ピカピカに磨き上げられて凄みを増してますね。
もちろん、ヘロッド様が決闘でこんなケチなものを使ったりしません。
(第一射程距離が足りない汗)
メインウェポンはもちろん、コルトSAA。当然カスタムメイド。
黒光りするフレームとバレルに豪奢な彫金。グリップにはドラゴンがあしらってあるという逸品。
部下から手渡された「制裁用」はレミントン1875カートリッジモデル。
これまた精緻なエングレーブが施された高級品。
若かりし頃は、コルトM1851ネービーモデル.36口径。
このあたり、ホント芸が細かい。ちゃんと時代考証してあります。
僕自身は映画鑑賞の際に
こういった細かい考証をうるさく言いたいタイプではありません。
重箱の隅つつき過ぎてエンターテイメントがつまらなく感じたりするのはヤだし
ストーリーに関係ない些細な部分を、まるで揚げ足取るように
自分の知識をひけらかしたりマウントとりたがるような
そんなのを好みません。
けれども、この映画のように
製作スタッフの熱意が感じられるのは、とても素晴らしいことだなあと
感心させられますね!
まだまだ続けましょう。
ヘロッドのご子息、キッドの愛器も勿論ゴージャス。
メインはSAA。
ニッケルめっき、アイボリーグリップの1stモデル。
実際のプロップがこちら
照星とハンマーのナーリングを削った「クイックドロウ」スタイル。
フレーム、バレル、グリップのエングレーブもお見事!
バレル長 7.5インチのキャバリーモデルも所有。
(決闘の際は早撃ちに適した短い銃身モデルを使用)
リロードの際のアップにも十分に絶える工芸品のような美しさ。
SAAだけではありません。レミントンも持ってます(金持ち)
なんとシルバーのグリップがおごられた、これまたゴージャス!
まだまだありますドラ息子。
お父様から買ってもらったのはS&Wのモデル3。
これまたピカピカめっき仕様。
格差社会は今にはじまったことじゃあ無いんですよね~(涙
そう。貧しき牧師はトーナメントに出るっていうのに自身の銃を持っていません。
コートが使うのは借り物の銃、しかも与えられた弾薬は一発のみ。
なんとも古臭くみえる、使い込まれたコルトネービー。
いちおう、カートリッジコンバージョンされたモデルではあるようですが…
いやいや、弘法筆を選ばず。
元・無敵のアウトロー、本能爆発。
それにしてもこの銃、プロップというか
当時モノのアンティーク?と思わせる風格。
リチャーズ・メイソンタイプのコンバージョンで
鉄感たっぷり、黒ずんでキズだらけの木製グリップ…
ともあれ我らがラッセルさま。
最終的には奪った銃器で無双状態に?
まだ続くよ~
個性豊かな出場者たちは、愛銃も個性豊か。
ギャンブラーのエースは、スペードマークをあしらったSAA。
アイデンティティを表現しています。
こちらもエングレーブ、早撃ち仕様。
鬼軍曹カントレルが手にしているのは
なんとも珍しい、ロジャー&スペンサー。
ええ、革靴じゃありませんよ。
最初一見して、スタールリボルバーかなと思いましたが…
けっこうレアだと思う、ロジャー&スペンサー
しかもカートリッジコンバージョンモデル。
荒野の殺し屋、ドッグ・ケリーが使うのは
コルト、アーミー1860。これまたコンバージョンモデル。
もしかしたらバレルがソウドオフされてるのかな?
怒れるインディアン、スポッテド・ホースはコルトSAA。
キャバリーモデル。チャンバーから鉛のブレットボールが見えます。
そして圧巻は、髭ヅラ紳士のガズトン。
おもむろにケースを開くと…
ルマット・リボルバー!!!
フランス人のお医者さん、ル・マット氏が開発した狂気のリボルバー。
じゃーん!
.42口径、9連発というだけで壮大なファイアパワー。
さらに16ゲージの散弾も撃てちゃうというシロモノ。
ただし先込めパーカッション式。
そのリロードのようすが映画の中でしっかり描かれてます。
まず、フレスコから黒色火薬をチャンバーに適量。
ブレットを入れたら、ラマーでぐいぐい押し込む押し込む。
これを9回・・・おお。
4本の弦を張り替えるのでさえ面倒くさくってしょうがない僕にとっては
ルマットはなかなかに敷居の高い相棒かも(汗
ブレットを全部おさめたら、チェーンファイア防止のグリスを塗り塗り。
いやはや、ここまでバッチリ描写してる映画、なかなか無い!
ババーン!!
この威力、果たしてトーナメントで生かせるか否か…
非常時には自らの命を預ける相棒。
平時には関わる人たちへのアピールになる、いわば名刺代わり。
当然そこには自身の出自や個性、思想が色濃く反映されます。
日本人にとっての、かつての刀がそうだったと云います。
何故、その刀を、銃を持っているのか。なぜそういう仕様なのか。
そこはかとなく滲み出る人柄、背景にあるカルマ。
その辺を読み取ることが出来るのも、また映画の楽しみの一つですね!
そうそう。僕はぜんぜん詳しくないけれど、
開拓時代に銃と並んで、いやそれ以上に重要だったのが「鞍」だと云います。
命の次に大事、とも。
もちろん、遠く太平洋を隔てた日本で生まれ育った僕には
まったくもって理解の外にある北米開拓時代のアレやこれ。
知ったかぶりするので精一杯なわけですが
食生活、モラル、ファッション、生活様式、信念、などなど…
今はよき友人となったUSAという国、その国造りの根幹をなした
フロンティアたちの生き様をもっと知ってもいい、そう思いますし
何より自身の腕と知恵で、無限の荒野をひたすら走り生き抜いた
パイオニア精神にあふれたタフな者たちには、憧れますよね(^-^)
クイック&デッド、レンタル店にも大抵常備してあると思います。
是非、荒唐無稽でスタイリッシュな荒野に飛び込んでみてください!
アディオス、アミーゴス!(^-^)